ひとりでてくてくと

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★★★★ 書評「ピアノの演奏を文字で読む名作」 『蜜蜂と遠雷』(恩田陸、幻冬舎)

直木賞受賞前から評判がよく、ちょうど仕事の関係で会社にあったので、久しぶりに恩田陸さんの作品を手に取った。

恩田さんの作品は、初期作と『夜のピクニック』など数冊しか読んだことがなく、
ファンタジー的な作風というイメージしかなかった。

本書は二段組で500ページにも及ぶ大作だったが2日で読み終えるほど面白かった。

ストーリーはわかりやすく、日本で行われるピアノコンクールをめぐる青春群像劇で、
天才少年の風間塵、かつて天才少女で母の死でピアノが弾けなかった栄伝亜夜、
優勝候補と目されるマサル、音大出身の楽器店勤務のサラリーマン高島明石が
優勝をめぐってしのぎをけずる。

しかし、しのぎをけずると言っても、みんな爽やかに切磋琢磨していて、
誰も「悪役」が出ずに何とも爽快感のある小説だ。

読み終わった後、彼らが弾いた曲がどうしても聞きたくなり
クラシックのCDをいくつか借りてしまった。

恩田さんはデビュー25年らしいが、小説家としての語彙をすべて使って、
彼らのピアノの演奏をテンポよく描く。まるで音楽のように文字が躍る。

それが心地よく、読んでいて本当に心地が良い。

一部、本書のレビューで、漫画『四月は君の嘘』と『ピアノの森』との
類似が指摘されているが、『四月は君の嘘』に関しては、
その数年前に本書の連載が始まっているので、その指摘は当たらないだろう。
それにしても、小説のレビューで漫画と同列に評論するのはどうかと思う。

本書を読む際は、くれぐれも最終ページをいきなり見ないように注意してほしい。
しかも、透けたりしているので、注意しておかないと
コンクールの最終的な順位が出ているので、間違ってめくると楽しみが半減する。

ちなみに、私は「その後」の話が大好きなので、文庫化するときに彼らがどうなったか、将来の話を少し加えてくれたらうれしい限りである。(2017年1月読了)