ひとりでてくてくと

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★★★★ 書評「新たな冒険者の誕生だ」 宮木公博『外道クライマー』(講談社)

新たな冒険者の誕生―。

那智の滝を登攀したことで逮捕された著者が描く冒険譚であり、冒険論。

ハードカバーにも関わらず、冒険家の角幡雄介さんの解説があるのは、
初めての著作で、本が売れないことを危惧した編集者の仕業かもしれないが、
そんなことが必要もないワクワクする素晴らしい内容だ。

本書は、「那智の滝・登攀逮捕事件」から始まり、
タイのジャングルでの46日間に及ぶ「沢登り」を中心に著者の登攀記録で構成されている。

山を登ると言っても、いくつかのパターンがあり、ハイキング、本格的な登山、
登攀具を使ったロッククライミング沢登りなどがあり、夏と冬でもやり方や道具も違う。

通常、本格的な登山といった場合、2000~3000メートル級の
日本アルプスなどの山々を巡ることを指すもので、登攀具の出番は少ないだろう。

沢登りは、山に入り河を遡上していくので、ある程度、登山をこなし、
岩登りやクライミング技術が無くてはこなせない上級者の道である。

卑下しているかのように描かれる「沢登り」だが、解説でも角幡さんが書いているように、「沢登り」に対する登山界の軽視への怒りがそこにあるのかもしれない。

しかし、本書の読みどころは、やはりタイのジャングルでの冒険だ。
高野秀行さんの著作に通ずるところがあるが、とにかく会話やジャングルでの過ごし方がユニークで面白い。一緒に付いていきたくなるほどだ。

新しい冒険ものが読みたい方にはおすすめの1冊だ。

ちなみに、著者が書くネット上のブログ「セクシー登山部」も面白いので、
早く更新してもらいたい。

また、TBSテレビ「クレイジージャーニー」の出演回を見ると、非常に寡黙でまじめな印象だった。だいぶ本書とのイメージが違うのが面白い。(2016年読了)

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★★★★ 書評「爽やかで社会派な一冊」 森絵都『みかづき』(集英社)


ストーリーが秀逸で爽やかな社会派な一冊。

戦後の教育行政の変遷と共に、塾経営をする家族の物語りを描く森絵都さんの新作。
森さんがメディアでのインタビューでも語っている通り、
家族の大河の物語を描きたいと言う通り、主軸は家族のストーリー。

物語りは大きく3部に分かれていて、
1部の主人公は小学校の用務員として働く大島吾郎。

吾郎は用務員室で授業についていけない生徒に補習を行っていて、
そこに通う生徒の母親・赤坂千明が吾郎の勉強を教える手腕に目を付け、
共に学習塾を立ち上げることを持ち掛けることから物語りがスタートする。

2部は、吾郎と結婚した赤坂千明を軸に描く。
千明は学習塾を進学塾へと発展させるが、その方針についていけない吾郎と離別、
そして、塾業界を巡る争いにまい進していく。

3部では、千明の娘の子供(千明の孫)の一郎が主人公。
学校、塾ではない、第三の教育の道を模索する。

参考文献の1冊に、ジャーナリストの神保哲生氏と社会学者・宮台真司氏の
鼎談本(マル激トーク・オン・デマンドの書籍『教育をめぐる虚構と真実』)が
挙げられていて、そこからの影響が大きいとメディアのインタビューで語っていた通り、意外にもジャーナリスティックな一冊にもなっている。

森絵都さんらしからぬ(?)社会派な一冊ではあるが、
同じ年に出版された桐野夏生さんの『バラカ』ほどの破壊力はないかもしれない。

それでも、素晴らしい、おすすめの1冊です。(2016年12月読了)