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★★★★ 書評「爽やかで社会派な一冊」 森絵都『みかづき』(集英社)


ストーリーが秀逸で爽やかな社会派な一冊。

戦後の教育行政の変遷と共に、塾経営をする家族の物語りを描く森絵都さんの新作。
森さんがメディアでのインタビューでも語っている通り、
家族の大河の物語を描きたいと言う通り、主軸は家族のストーリー。

物語りは大きく3部に分かれていて、
1部の主人公は小学校の用務員として働く大島吾郎。

吾郎は用務員室で授業についていけない生徒に補習を行っていて、
そこに通う生徒の母親・赤坂千明が吾郎の勉強を教える手腕に目を付け、
共に学習塾を立ち上げることを持ち掛けることから物語りがスタートする。

2部は、吾郎と結婚した赤坂千明を軸に描く。
千明は学習塾を進学塾へと発展させるが、その方針についていけない吾郎と離別、
そして、塾業界を巡る争いにまい進していく。

3部では、千明の娘の子供(千明の孫)の一郎が主人公。
学校、塾ではない、第三の教育の道を模索する。

参考文献の1冊に、ジャーナリストの神保哲生氏と社会学者・宮台真司氏の
鼎談本(マル激トーク・オン・デマンドの書籍『教育をめぐる虚構と真実』)が
挙げられていて、そこからの影響が大きいとメディアのインタビューで語っていた通り、意外にもジャーナリスティックな一冊にもなっている。

森絵都さんらしからぬ(?)社会派な一冊ではあるが、
同じ年に出版された桐野夏生さんの『バラカ』ほどの破壊力はないかもしれない。

それでも、素晴らしい、おすすめの1冊です。(2016年12月読了)